キングコング西野の『新世界』の「はじめに」をアホみたいに分析してみた
先日、キングコングの西野氏が
▼こんなブログ記事を書いていました。
https://ameblo.jp/nishino-akihiro/entry-12404125976.html
新作『新世界』の「はじめに」の部分が丸っと書いてあるんですが、これがとんでもなく面白い。
「はじめに」だけなのに、異常なまでにワクワクする。
文字通り、自分の中の何かがはじまりそうな気がするくらい。
もう、めっちゃ衝撃を受けたんです。
衝撃を受けすぎて、「なんでこんな文章書けんの!?」と、気づけば「はじめに」の分析をしていました。
そんなわけで、1文1文にどんな効果があるのかを箇条書きしたので、備忘録として記事にしました。
ちなみに「はじめに」の文章は、全部で以下の10の場面・章に分けることができます。
- はじまりの舞台はここだ
- 壮絶な努力
- 努力の結果と新たな敵
- 敗北
- 復活の一歩
- 現れた黒幕
- 明らかになった黒幕の正体
- 敵は黒幕だけじゃないんだ
- 主人公の交代
- 俺たちの冒険はこれからだ!
それぞれの場面ごとに、文章の分析をまとめました。
概要
1.はじまりの舞台はここだ
※各章の文章を、そのまま引用しています
ベランダの目の前には通天閣があって、下を見ればヤクザとホームレスと、身体を売っている年齢性別不詳の何者かが立っている。
『新世界』という街だ。
「1年で売れなかったら芸人を辞める」と言って、高校卒業と同時に兵庫県の田舎町を飛び出し、この街で独り暮らしを始めた。
503号室の玄関には油性ペンで『エドウィン』と落書きがされている。
家賃は4万円。実家はサラリーマン家庭で、兄ちゃんと姉ちゃんとボクと弟の4人兄弟。
上の子二人を大学に放り込んだ西野家には、まさか仕送りをする余力なんて残っちゃいない。アルバイトには時間を使いたくなかったので、高校時代に貯めていた僅かな貯金が生命線。
地元の仲間が「つらくなったら、いつでも帰って来いよ」と盛大に送り出してくれたけど、盛大に送り出してくれた手前、結果を出すまでは帰れない。
だけど、テレビから流れてくる『東京』は、ずっと遠くて、今いる場所から続いているとは思えなかった。
分析
※上の引用文について、各文の役割を上から順に書き並べています
- 簡単に想像できるくらい細かな舞台説明
- 舞台の名称
- この舞台にいる理由
- 人物のすぐ周りの舞台説明
- 家族構成と自分に対する扱い
- 自分の現状の確認
- 友人紹介と自分に対する扱い
- 友人に対する感情
- 自分の現状の確認
読者を物語に引き込むため、できる限り細かい舞台設定を解説。
主人公(ここでは西野氏)に共感してもらえるよう、家族構成や友人との関係性にも触れる。
4文連続で、
「1年で売れなかったら芸人を辞める」、「503号室」、「家賃は4万円」、「4人兄弟」
と数字が散りばめられていて、具体性が一気に増している。
2.壮絶な努力
19歳のボクは、吉本興業の養成所で出会った梶原君と『キングコング』という漫才コンビを結成し、すべての時間を「お笑い」に費やした。
先輩の誘いも断って、血が出るほど漫才のネタを書き続けた。
「質」はさておき、誰よりも「量」を書いた。
ネタが書き終われば、朝の4時だろうが5時だろうが梶原君を呼び出して、そこから20時間ブッ通しでネタ合わせすることも珍しくない。
眠そうにしている梶原君にブチギレたことが何度もある。
人として未熟だったし、必死だった。劇場の出番が終わると、真っ直ぐ家に帰った。
付き合いの悪いボクに対して、先輩方が快く思っていないことには気づいていた。
目の前にいる先輩方は、学生時代から毎週テレビで観ていたボクのヒーローで、その人達から「西野ってイタイなぁ」と言われた時は、それなりにショックを受けた。
それでも、やっぱり真っ直ぐ家に帰ってネタを書いた。
早く売れたかったんだよね。
仲間に夢を語って田舎を飛び出したものの、実際のところは、何者にもなれないまま終わってしまいそうな不安に毎日襲われていて、あと少しでもこの場所にいると、まもなく未来が翳り始めるような気がして。
分析
- 現状の努力
- 具体的かつ比喩的に努力を表現
- 抽象的に努力を表現
- 数字を使って具体的に努力を表現
- 具体的に努力を表現
- 当時の感情
- 具体的に努力を表現
- 周りの視線とそれに対する感情
- 自分にとっての周りの視線を解説
- 逆説→具体的な努力を表現
- 努力の理由
- 努力の理由を一言で簡潔にまとめる
血なまぐさい努力をひたすら書き連ねている。
とにかく泥臭さを表すために、
- 具体的な表現
- 抽象的な表現
- 数字による表現
- 感情
- 客観的な表現(周りからの視線など)
と、さまざまな手法で努力を淡々と、とにかく畳み掛けて表現している。
導入直後に「壮絶な苦労話」が入ってくると、「ここからどうなるんだ?」と引き込まれる。
この章全体を通して、明るい表現がまったくない。これっぽっちもない。
「これだけ明るいことがなかったら、さすがに何かいいことがあるだろう」と、同情にも似た共感を与える。
次が気になる。
3.努力の結果と新たな敵
ラッキーなことに、努力の成果は少年漫画みたいに出た。
養成所の在学中にNHKの漫才コンクールの大賞をいただいて、1年目で関西の漫才コンクールを総ナメして、20歳の頃に東京で『はねるのトびら』という深夜番組がスタートした。
そこから、さらにガムシャラに働いた。
毎日、早朝からド深夜まで番組やイベントに出演。
分刻みのスケジュール。
睡眠時間は一日1~2時間。
ベッドで寝られる日なんて稀で、大体は新幹線かロケバスの椅子の上。
移動時間を利用して、寝ていたのか、気絶していたのか。そんな中、漫才の新ネタは週に4~5本おろして、ショートコントは毎月20本おろした。
毎日のようにネタ番組や新ネタを披露する舞台があるのに、すぐに売れたボクらには、先輩方のようにネタのストックが無かったんだ。
スピード出世も考えもんだ。もちろん新ネタを書く時間なんて用意されちゃいない。
番組でVTRを観ている間や、漫才の出番中に、頭の中で次のネタを書いていた。
お粗末だよね。芸歴10年近い先輩方が劇場で何年も叩いて仕上げた鉄板ネタと、昨日まで高校生だったヤツが突貫工事で作ったネタが同じ商品棚に並べられるんだ。
そんなの、勝てっこないじゃない。テレビ出演にしてもそう。
右も左もわからず、共演者との関係性も、MCのノウハウも、エピソードトークのストックもない。
話を振っては無視されて、話を振られてもタジタジ。何の経験もない20歳が、無駄に「エリート」と紹介され、期待値ばかりを上げられて、空振りの連続。
「エリートのワリに面白くないね」
「司会が下手くそ」
散々、言われたな。
ちょっと待ってくれよ、昨日まで高校生だぜ。
だけど世間は容赦ない。
毎日毎日、負け続けた。
分析
- 努力の成果を一言で簡潔に
- 成果を具体的に一言で
- 成果に対する行動を抽象的に
- 具体的な行動を書き連ねる
- 数字を使って具体的な行動を表す
- 行動の理由
- 成果に対する感情
- 追い込まれていることを表現
- 追い込まれている中での行動
- 状況を一言で簡潔に
- 状況を例示を使って表現
- 状況を一言で簡潔に
- 並列でもう一つの例を出す
- 状況を具体的に
- 状況を具体的に
- その状況が起こっている原因とともに、さらに具体的な状況説明
- 「状況を如実に表すセリフ」
- 「状況を如実に表すセリフ」
- セリフに対する事実
- セリフに対する言い訳
- 言い訳に対して冷たい周りの状況
- 現状を一言で簡潔に
同情した甲斐があったというかなんというか、努力はそれなりに実った。
だけど安心したのもつかの間。
読者の思った通りには展開しない。
努力した結果、報われると思った矢先に、より壮絶な展開へと物語はシフトしていく。
最初の壁は、本当に大したことがなかったことが、文量からも垣間見れる。
最初の2文以外、すべてがネガティブな文章だし。
じわじわと主人公にとって不利な状況が生まれ、最後にそれらを象徴する「具体的なセリフ」を連続で並べることで、さらに悲惨さが伝わってくる。
さも「これからさらに悪いことが起こるんだぜ」とでも言ってるかのような、不穏な空気を漂わせている。
一瞬だけ明るい話題(最初の2文)が出たこともあって、よりダークな雰囲気を感じる。
「え?これ以上悪いこと起こらないよね?ね?」と思いつつも、「どうせ起こるんだろうなぁ…」という期待にも似た不安から、読者はさらに続きを読まざるを得ない。
この章から、「今の状況をひとことで、簡潔に述べる文章」が頻繁に出てくる。
文章が長くなっても、ひとことで状況をまとめているので、物語の中で迷子にならない。
4.敗北
その頃、梶原君は頭に10円ハゲをたくさん作っていた。
精神的に追い込まれ、トイレから出てこない日もあったし、突然発狂することもあった。
次第には、まともに会話が出来なくなっちゃっていて、ついに全ての仕事を投げ捨てて、失踪した。行方不明になってから3日目。
関西のカラオケボックスで見つかった梶原君は、ひどく怯えていて、もう、完全に壊れていた。
とても仕事なんてできる状態じゃない。
会話ができないどころか、声が届いてないんだ。
一緒にバカをして、一緒に未来を見た相棒が、ブッ壊れちゃったんだよ。
なんで、こんなことになっちゃったのかな。
生きていてくれたことが唯一の救い。
その日にキングコングの無期限活動休止が決定。
1日で全ての仕事を失った。ボクが一人で活動をして、もしそれが軌道に乗ってしまったら、いよいよ梶原君は帰ってこれなくなってしまう。
マネージャーと話し合って、一人での活動はやらないことにした。「自宅待機」というヤツだ。
この「自宅待機」は、いつまで続くんだろう?
梶原君は戻ってくるのかな?
先がまるで見えない。
だけど、もし梶原君が戻ってくるようなことがあったら、今度はもう負けたくないな。自宅にこもって、ネタを書き続けた。
メモ帳を片手に、朝から晩までテレビにかじりついて、先輩方の芸を盗み続けた。
なるほど、テレビって、こうやって戦うんだ。
分析
- 状況がもたらしたちょっとした不幸
- 不幸<不幸<不幸
- <不幸<不幸<大事件
- 具体的な日時
- 大事件の具体的な様子
- ひとことで簡潔に
- さらに具体的な様子
- 自分の過去と照らし合わせて、ひとことで簡潔に
- なぜこんなことに
- 不幸中の幸い
- 大事件が沈静化して何が起こったか
- ひとことで簡潔に
- 大事件沈静化に対して、客観的に思うこと
- 思ったことに対しての行動
- 行動をひとことで簡潔に
- 行動に対する不安
- 大事件に対する不安
- 将来に対する不安
- 行動が実ったら、どうするか
- 未来に向けての行動
- 具体的に
- 行動をした結果得られた、ふとした気づき
主人公がどん底に落とされる章。
最初から不幸な出来事が、少しずつ不幸度合いが高くなって、淡々と並べられている。
そして最後にどーんと、「失踪した。」という強烈すぎる大事件をシレッと置く。
じわじわと、だけど淡々と不幸度合いが高くなったことで、読者にも心の準備はできていたものの、最後に置かれた事件の不幸度合いが急激に上がりすぎて、そのギャップに読者はやられる。
「え?それはやばくない?」と。
この、「淡々とヤバイことを言う」ってのは、ギャップのおかげでかなり強力な表現になる。
この表現によって、
関西のカラオケボックスで見つかった梶原君は、ひどく怯えていて、もう、完全に壊れていた。
とても仕事なんてできる状態じゃない。
会話ができないどころか、声が届いてないんだ。
一緒にバカをして、一緒に未来を見た相棒が、ブッ壊れちゃったんだよ。
なんで、こんなことになっちゃったのかな。
生きていてくれたことが唯一の救い。
という、異常すぎる文章が自然に頭の中に入ってくる。
普段の生活でなかなか聞かないような異常な表現は、淡々と畳み掛ける技法を使って、一気に「非日常モード」へ転換するのが効果的かも。
そしてこの章は、これまでの章と比べて感情的な表現が多い。
今まで淡々とした事実が多かった分、ここに来ての「感情ラッシュ」は非常に印象的。
しかもここで出ている感情は「不安そのもの」。
人は、明るい気持ちには共感しない。
暗く、ダークな気持ちにこそ、魔力的な共感を覚える。
そしてこの章の最後にして、
なるほど、テレビって、こうやって戦うんだ。
と、何かが転換しそうな「ふとした一言」が置かれている。
この一文によって、「ここがどん底か」と読者は察するはずだ。
5.復活の一歩
活動休止から3ヶ月。
梶原君から連絡があった。
全ての情報をシャットアウトしていた梶原君に、梶原君の母ちゃんが言ったそうだ。「西野君、まだ、あんたのこと待ってるで」
梶原君は、「西野は、もうとっくに一人で活動している」と思っていたみたいで、まさか自分のことを待っているなんて思ってなかったらしい。
置いていくわけないじゃないか。
ボク、漫才がしたいんだから。3ヶ月ぶりに梶原君と会った。
「ごめん! 俺、とり返しのつかないことをしてもうた。ごめんなさい! ごめんなさい!」
梶原君は何度も何度も頭を下げたけど、全然問題ない。
もう大丈夫。ホントに大丈夫だから。
もう一回、やり直そう。
大丈夫、いけるよ。
分析
- 具体的な日時
- 些細な進展
- 進展の原因
- 「進展の原因となったセリフ」
- すぐに進展しなかった理由
- その理由に対する心情
- その心情に対する理由
- 具体的な日時と、具体的な進展
- 「その進展に関するセリフ」
- 具体的な状況と、それに関する所感
- 所感を繰り返して強調
- 未来に対する行動をひとことで簡潔に
- 「根拠のない自信」をひとことで簡潔に
前章の最後の一文によって、読者は「ここから先ははハッピーエンドに向かうはず」という期待を覚える。
主人公のモノローグ(心の声)を、かっこ「」なしの口語で表現しているのが印象的。
本当に何かが動き出しそうな気がする。
というかここまでの時点で、主人公のセリフは一番最初の章の
「1年で売れなかったら芸人を辞める」と言って、高校卒業と同時に兵庫県の田舎町を飛び出し、この街で独り暮らしを始めた。
の部分だけ。
しかも、実際に喋っているわけではなく、過去の情景として切り取っているに過ぎない。
だからこそ主人公のセリフに重みが生まれている。
ちなみにこの章最後の「大丈夫、行けるよ。」は、この物語のラストにも登場する。
6.現れた黒幕
次の日、キングコングの活動が再開した。
まずは御迷惑をおかけした各仕事先への謝罪行脚。
そして、いただいた仕事と一つずつ一つずつ丁寧に向き合って、着実に仕事を増やしていった。ボクは25歳になった。
『はねるのトびら』はゴールデンタイムに進出。
まもなく、日本一視聴率をとる番組に成長した。
各局で冠番組もいただいた。
「売れっ子芸人」というヤツだ。裏側を知らない人から見ると、絵に描いたようなサクセスストーリーだった
チヤホヤされたし、生活も良くなった。
25歳ではできないような経験をたくさんさせてもらった。
まわりが羨むような状況だったと思う。だけど、そこは、新世界のボロマンションから見ていた未来じゃなかった。
その山を登れば景色が広がるものだと信じて、誰よりも努力をして登ってみた。
だけど、そこから見えた景色は、タモリさんや、たけしサンや、さんまサン、ダウンタウンさん、ナインティナインさん…といった先輩方の背中だった。彼らのことをまるで追い抜いていなかったし、一番の問題は、追い抜く気配がなかった。
梶原君とボロボロになって、ようやく辿り着いた先がココ?
やれることは全部やったハズだ。
なんで突き抜けてないんだろう。
どこで道を間違ったんだろう。世間の皆様は「身の程を知れ」って言うかもしれないけど、芸を生業にする人間として、彼らは当然ライバルだ。
ボクがこの位置に落ち着いてしまうと、ボクのことを信じて応援してくているファンやスタッフに申し訳が立たない。
自分のことを応援してくれている人には、せっかくなら誰よりも大きな夢を見させてやりたい。
そう思うのは間違ってるかな?それに、身の程に合わせて活動してしまったら、いつまでたっても未来が始まらないじゃないか。
ボクは、「どうして今の自分に、芸能界のトップを走る先輩方を追い抜く気配が備わっていないのか?」を考えてみることにした。
まさかここで、『才能が無かった』という生ぬるい結論を出すつもりはない。
『才能』なんて努力でいくらでも作り出せる。
『才能の作り方』に関しては、本編で詳しく説明するね。
分析
- 復活の一歩
- 具体的な行動
- 具体的な行動
- 年齢で月日が経ったことを表す
- 復活して得られた成果
- さらなる成果
- さらなる成果
- 成果をひとことで簡潔に
- 成果を客観的に
- 成果に対する事実
- 成果を抽象的に
- 成果に対する周りの反応
- 逆説→冒頭と絡めた疑問提起
- 冒頭で掲げた目標に対する努力を抽象的に
- その努力の結果を具体的な名称を出しつつ、抽象的に
- 最大級の問題点が明らかに
- あれだけ努力したのにこれ?
- 努力量をひとことで簡潔に
- 疑問をひとことで簡潔に
- 冒頭で掲げた目標が達成できないことに対してひとことで簡潔に
- 目標が達成できないことに対しての周りが思っていることと、それに対しての所感
- そう思う理由(現状に対して)
- そう思う理由(未来を見据えて)
- そう思うことに対しての疑問提起(反語的に)
- 現状維持だと何も変わらない
- 冒頭の目標が達成できない理由を考えてみた
- 当たり前の結論に対して批判
- 批判についてひとこと補足
「ここから先はハッピーエンド一直線だろう」と期待させておいて、そのまま終わる西野氏じゃなかった。
ハッピーエンドに向かうにしては、物語の展開スピードが速すぎる。
いくらなんでも、トントン拍子すぎやしないか?
不思議。
書いてある文章自体は、どれも明るい話題ばかりなのに、展開スピードだけでこんなにも不穏な空気を生み出せるんだね。
そして案の定、これまでの話を一気に覆すような、新たな壁が現れたことを示唆している。
いや、新たな壁といったけど、実際は「この物語がはじまったときから存在していた壁」だ。
主人公が最大級の困難を乗り越え、昔と比べ物にならないくらい成長したことで、ようやく確認できるようになった壁。
ここまで読んできた読者は、「今の主人公だからこそ、乗り越えられるはずだ」と確信していることだろう。
だからこそ読者は、「無理難題ともいえる試練を、主人公がどうやってぶち破ろうとしているのか」を、知らず知らずのうちに期待している。
次が気になる。
7.明らかになった黒幕の正体
ボクが彼らを追い抜いていない(追い抜く気配が無い)原因は、『才能』と別のところにあった。
その当時のボクが走っていたレールというのは、タモリさんや、たけしサンや、さんまサンといった先輩方が、もともと何も無かった世界に敷いてくださったレールだ。
当然、そのレールを走ると、最終的には、最初にレールを敷いた人間の背中を押す作業に入る。
「『踊る!さんま御殿』で結果を出せば出すほど、さんまサンの寿命が伸びる」という構造だ。ファミコンで喩えると、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』といったソフトを作れば作るほど、ファミコン本体(ハード)を作っている任天堂にポイントが入るって感じかな。
真剣に先輩方を抜く気なら、ファミコンのソフトを作っていてはダメで、彼らとは別のゲーム(たとえばプレステ)のハードとソフトの両方を作り、世間の目をそのゲームに向ける必要があると結論した。
分析
- 冒頭の目標が達成できていない理由が明らかになったことを述べる
- 冒頭の目標が達成できていない理由を抽象的に
- 抽象的な状況の説明
- その業界に関する例示を使って説明
- より一般的な例示を使って説明
- 一般的な例示を使って、「じゃあどうやったら目標達成できるのか」を説明
前の章では、「そもそも黒幕の正体が何だったのか」が不明確だった。
この章で、読者が理解しにくい「黒幕の正体」を、具体例を使ってわかりやすく解説している。
見事なのは、
抽象的な表現
→具体例で説明
→より読者に身近な具体例で説明
→読者に身近な具体例で攻略法を説明
というステップで、攻略法まで解説しているところ。
なるほど。
具体例ってこうやって使うのか。
8.敵は黒幕だけじゃないんだ
そこで。
まだタモリさんや、たけしサンや、さんまサンといった先輩方が足を踏み入れていない世界に出てみることにした。芸能界の外だ。
「誰も踏み入れていない土地を歩こう」
25歳という若さが後押ししてくれた。
だけど、そう簡単にはいかない。
ボクの人生は、何度落ちても気が済まないらしい。何の後ろ盾も無く外に飛び出すと、先輩方や同期の芸人や世間の皆様から執拗なバッシングを浴びた。
もしかするとキミも一度は耳にしたことがあるかもしれないね。
一時期は、バラエティー番組をつければ、「芸人なのに雛壇に出ないキンコン西野」をネタにした欠席裁判が繰り返されていた。
もしかすると、それは芸人の「愛情表現」だったのかもしれない。ただ、それはイジッている側の理屈で、それが欠席裁判だと、ボクには歪んで伝わってくる。
そして、なにより、その番組を観た視聴者からの同調圧力が止まらない止まらない。
「調子に乗るな」
「ざまあみろ」
「死ね」
こんな言葉が毎日数百件届いた。
そして、アンチの人達は「ひな壇に出ろよ」の大合唱。
へ? ボクをテレビで観たいの? どっち?
もうワケが分からない。被害妄想なんかじゃなくて、事実、この国で、キングコング西野を叩くことが流行った時期はあった。
病的とも思えるほどに。
世間からボッコボコに殴られている息子を、黙って見ることしかできなかった父ちゃんと母ちゃんはツラかっただろうな。この単語はあまり使いたくないけど、『イジメ』に遭っていた。
日本国民からだ。もちろん僕の人間性にも原因があるけど、何の苦労もせず(したよ、誰よりも)、若くして売れてチョーシに乗っていた芸人の人生転落物語は、嘲笑うには格好の的だったのだと思う。
攻撃を受ける対象がボクだけならまだしも、その手は、それでもボクのことを応援してくれているファンやスタッフにまで及んだ。
「お前、キングコング西野のことなんか応援してんの?」
ボクのファンやスタッフは、毎日、そんな言葉を浴びていた。
彼らには、謝っても謝りきれないほど、ずいぶん肩身の狭い思いをさせてしまった。原因は分かっている。
ボクが弱かったからだ。
分析
- 一般的な例示を使った解決策を、具体的な解決策に変換する
- ひとことで簡潔に
- 「解決策に対する意気込みのセリフ」
- そのセリフに対する心情
- 心情に対する現実を抽象的に
- 自分に向けられた現実からの批判
- 具体的な現実の姿
- 読者に語りかけるひとこと
- 具体的な現実の姿
- その現実に対する比喩表現
- 現実に対する所感
- 現実が引き起こす、さらなる負の連鎖
- 「負のセリフ」を書き連ねる
- ひとことで簡潔に
- 「(まとめ的な)負のセリフ」
- そのセリフに対する所感
- 所感をひとことで簡潔に
- 現実に対して客観的な事実を述べる
- 事実を強調するひとこと
- その事実を知った親しい人に対する想い
- その事実が起こった原因(自分自身におけるもの)
- その事実が自分以外のモノに影響している現状
- 「その現状を揶揄するセリフ」
- このセリフを誰が受け取るのか
- このセリフを受け取った人に対する想い
- 原因は分かっている
- 原因をひとことで簡潔に
黒幕の強さをとことん挙げまくる章。
ただ「黒幕が強い」ってだけじゃなく、黒幕を取り巻く環境すべてが敵と化している状況を書き連ねる。
できる限り具体的・客観的な表現だけを使って、事実を淡々と並べている。
事実に対する「評価」はしているけれど、感情表現は抑えている。
あくまでも客観的な目線から文章を書いている。
感情表現はどうしても主観的な話になってしまい、「ほら、共感してよ!」っていう雰囲気が伝わる気がする。
だけど客観的な事実が並ぶことで、読者は勝手に共感する。
「僕はこう思います」と感情を書くよりも、「こんなことがあった」と事実を並べる方が、狙った共感を引き出せるのかもしれない。
9.主人公の交代
キミは今、どこにいる?
一歩踏み出したいけど、踏み出せない場所にいるのかな?
変わりたいけど、変われない場所にいるのかな?そりゃそうだよね。
メチャクチャわかるよ。
一歩踏み出した人間が、こうしてボッコボコに殴られてるんだもんね。
怖いよね。どうしてなんだろう?
どうして、自分の人生を、自分の思うように生きることが許してもらえないんだろう?
どうして、挑戦すれば、めいっぱいバカにされて、めいっぱい殴られるんだろう?
どうして、挑戦を止められてしまうんだろう?悔しいな。
おかしいよね。
誰にも迷惑かけてないじゃないか。だけどね、
この国では、外に出ようとすると必ず村八分に遭う。
この国では、多くの人が自分の自由に自主規制を働かせて生きているから、自由に生きようとすると、必ずバッシングの対象になる。
その根底にあるのは、「俺も我慢しているんだから、お前も我慢しろ」だ。夢を語れば笑われて、行動すれば叩かれる。
挑戦する以上、この道は避けて通れない。
分析
- 「疑問の回答例」
- 「疑問の回答例」
- 共感
- さらに共感
- ここまでの事実を理由に挙げる
- さらに共感
- 幅広く捉えられる疑問詞
- 疑問の詳細
- 疑問の詳細
- 疑問の詳細
- 共感
- さらに共感
- 所感
- 逆説
- 疑問に対する事実
- 事実をさらに細かく述べる
- その事実の原因を述べる
- 悪しき事実をひとことで簡潔に
- 悪しき事実に対する、さらに悲痛な事実をひとことで簡潔に
ここで突然の場面転換。
主人公(西野氏)の話から、読者(あなた)の話へと切り替わる。
前の章で、「主人公は一体、どうやって黒幕を倒すんだろう?」と読み進めていた読者は、次の主人公の行動が気になって仕方ない。
そこでこの場面転換だ。
物語の主人公が、西野氏から読者へ切り替わる。
つまり「主人公は一体、どうやって黒幕を倒すんだろう?」という疑問が、そのまま「私は一体、どうやって黒幕を倒すんだろう?」という疑問に差し替わるわけだ。
ここまでの物語は、あくまでも西野氏の話だったけれども、この瞬間に「あなた自身の物語」へと切り替わる。
ここから先の物語が、自分ごとになる。
物語の主役が読者になってから、畳み掛けるように「黒幕の強さ」が列挙される。
疑問形を書き連ねることで、読者の疑問を代弁し、強烈な共感を生み出す。
突然、物語の主人公に仕立て上げられた読者は、自分がこれからどうしていけばいいのか、道標を欲する。
文章を読む動機が、「主人公の行動が気になる」から「道標が欲しい」に切り替わる。
10.俺たちの冒険はこれからだ!
でも、大丈夫。
キミは、キミの最初の一歩を決して諦める必要はない。ボクが証拠だよ。
あれだけボッコボコに殴られて、死んでないだろ?
今、ボクは、本を出せば、どれもベストセラー。
有料のオンラインサロン (https://salon.otogimachi.jp/)(ファンクラブみたいなもん)は国内最大。
つまんない仕事は全部断って、自分が本気で面白いと思ったことしかやっていない。
皆は転落したと思っていたけど、ボクは転落なんてしちゃいなかった。ずっと探していたんだよ。
戦い方を。
生き延び方を。そして、ようやく見つけた。
今は、世界を獲りに行っている最中だ。
獲るよ、本気で。いいかい?
キミがいるその場所から一歩踏み出すのに必要なのは、「強い気持ち」なんかじゃない。キミに必要なのは、踏み出しても殺されない『情報』という武器だ。
今、世の中で何が起こっているのかを知るんだ。
時代が大きく動いている。
ここ1~2年は、とんでもない規模のゲームチェンジが起こっている。
とくに『お金』は大きく姿を変えた。
当然、扱い方も変わってくる。ほとんどの人がこの変化に気がついていなくて、変化に乗り遅れた順に脱落していっている。
キミに守りたいものがあるのなら、この変化を正確に捉えるんだ。少しだけボクの話に耳を傾けてください。
そこから一歩踏み出す方法を教えるよ。
一緒に勉強しよう。大丈夫、いけるよ。
分析
- 逆説→読者に前向きな言葉を投げかける
- 読者に対して抽象的なアドバイス
- 他ならぬ自分が(アドバイスの)証拠
- 今の自分の栄光
- 今の自分の栄光
- 今の自分の生活
- 世間と自分の今のギャップ
- この生活を手に入れるに至った努力をひとことで簡潔に、倒置で
- 努力の結果をひとことで簡潔に
- 今目指していることをひとことで、簡潔に
- 野望を倒置で
- 語り口調で「最後にまとめるよ」という雰囲気を読者に投げかける
- 世間一般論だと思われていることを否定
- 主張をひとことで簡潔に
- 詳細
- 主張の根拠となる社会背景をひとことで簡潔に
- 詳細
- 具体例
- 具体例の説明をひとことで簡潔に
- 上記の「社会背景」に対する世間の反応
- 読者に対してアドバイスをひとことで簡潔に
- 読者に取って欲しい行動(CTA)
- 何を与えるか
- 読者に取って欲しい行動(CTA)
- 勇気を与えるひとこと
前の章で煽っていた不安を、この章で一気に取り除く。
特に、下のフレーズは印象的。
ずっと探していたんだよ。
戦い方を。
生き延び方を。そして、ようやく見つけた。
今は、世界を獲りに行っている最中だ。
獲るよ、本気で。
短い言葉の連続なのに、どれも力強さを感じる。
これまでの文章が基本的に20~40文字だったこともあって、余計にこの短さが際立っている。
「読点(、)」を使ってぶつ切りにしているのも、ひとことずつ噛み締めて発言しているようにも見える。
そしてこのフレーズによって、二人の主人公が合流する。
「読者(あなた)」と「筆者(西野氏)」だ。
これからの物語は、読者と筆者が二人三脚でつくっていく。
読者(あなた)の相方である西野氏は、幾多もの困難を乗り越えてきた人間であることは、もはや言うまでもないこと。
そんな心強い相方からの最後のメッセージが、
大丈夫、いけるよ。
のひとこと。
5章の最後、キングコングの相方・梶原氏への言葉と、まったく同じひとことで締めくくられている。
まとめという名の備忘録
これだけ長くても最後までサクサク読めるのは、『ひとことで、簡潔に』を徹底しているからかな。
場面転換が起こる直前に、ひとことで、簡潔に。
状況が分かりにくくなる直前に、ひとことで、簡潔に。
これまえの状況を『ひとことで、簡潔に』まとめる技術は、長文を読ませる上で欠かせない。
文章全体を通して、具体的・客観的な表現が中心になっている。
だからこそ、筆者の主張や感情表現が一層際立っている。
そして時系列がこの上なく明確。
時系列の乱れは、余計な混乱を招く。
文の内容よりも、文のリズムを大切にしている感じ。
その頃、梶原君は頭に10円ハゲをたくさん作っていた。
精神的に追い込まれ、トイレから出てこない日もあったし、突然発狂することもあった。
次第には、まともに会話が出来なくなっちゃっていて、ついに全ての仕事を投げ捨てて、失踪した。⇒小さな不幸から順に並べて、最後にドカンと強烈な一言
ボクは25歳になった。
『はねるのトびら』はゴールデンタイムに進出。
まもなく、日本一視聴率をとる番組に成長した。
各局で冠番組もいただいた。
「売れっ子芸人」というヤツだ。⇒「こんなに順調にいくと、次が怖い。どうなるんだろうか」という不安が生まれる
ずっと探していたんだよ。
戦い方を。
生き延び方を。そして、ようやく見つけた。
今は、世界を獲りに行っている最中だ。
獲るよ、本気で。⇒ひとことずつ噛み締めている感じ
あたりは、内容自体に特別感はないのに、リズムだけで雰囲気を生み出している感じがする。
以上、備忘録。